ファツィオリ wikipedia|無料辞書
ファツィオリ(
FAZIOLI)は、
イタリアの
ピアノメーカー、及びそのピアノをいう。イタリア語の標準的なアクセントは、後ろから2つ目の音節の母音につくため、「ファツィオーリ」ともカタカナ表記される。
1978年に創業した新興のピアノ・メーカーである。
独立アリコート方式や「
第4のペダル」などの独特の機構を持ち、最高級の材料を使用して手作業で製造される。世界最大級のサイズを持ち、最も高価なピアノ
[出典:吉澤ヴィルヘルム著『ピアニストガイド』、青弓社、2006年、227ページ。]としても知られる。
2008年10月に東京に日本総代理店のショールームができ、メディアでの取り上げ頻度が上がりつつある。
◆ 概要
ファツィオリ社の工場は
イタリア北部の
サチーレにある。
ピアノ調律師兼製作者のチェザーレ・アウグスト・タローネ(
ミケランジェリの専属ピアノ調律師)の弟子らを招聘し、音響学や木工技術などの専門家と共に研究を積み、
1980年に最初のモデルを完成させた。その後創業20年あまりで、
スタインウェイや
ベーゼンドルファーなどのメーカーに並ぶ名器と評価されるようになった。有名ピアニストを含む一部のピアニストは、それら既存メーカーを上回る品質であるとファツィオリを評価している
要出典。
ピアニスト兼作曲家である創業者の知見が設計に生かされており、高級木材をふんだんに使用している。また職人による細かな手作業を製造工程に組み込んでおり、1台のピアノ製作に約3年、約800時間の作業をかけると言われる
要出典。
◆ 特徴
◇ フィエンメ峡谷産レッドスプルースを使用した響板
ピアノの音色を決定づける
響板は、
アラスカ産の
スプルースがよく用いられるが、ファツィオリにおいては
フィエンメ峡谷産のレッドスプルース(赤トウヒ)が使用されている。フィエンメ峡谷産レッド
スプルースからは非常に軽量で均質な材が得られ、良好な振動伝達を実現する木材とみなされている。
ファツィオリの響板は、製作が終わってから2年間、空気管理された倉庫で熟成される。このシーズニングにより、ファツィオリのピアノは、空気の異なる世界各地へ空輸されても優れた安定性を発揮するという。
◇ ハンマーのフェルト
最高級の羊毛を素材とした
フェルトを用いている。他メーカーでは機械によるハンマーのフェルト作りが一般的であるが、ファツィオリはフェルトに硬化剤を使用せず、手作業でフェルト作りを行う。これにより弾力に優れたハンマーが得られる。
◇ フレームの鋳造
現代の一般的なピアノ製造工程では、ピアノ内部の鉄製フレームを鋳造する際、
真空吸引法を用いる。これは鋳型の隅々に鉄を確実に流し込み、作業を短時間で進めることができるという利点を持つ。しかしファツィオリでは、伝統的な古い方法で時間をかけて鋳造している。
◇ 可変式ブリッジによる倍音の調律
ピアノにはオクターヴ上の倍音を響かせるためのブリッジが各音の弦の奥に付いている。従来のピアノのブリッジは、全音が一体型でできた固定式のサプリメンタルブリッジによっていたため、各ブリッジによる倍音を正しいピッチに調律することが不可能で、ピアノの音色を完全に整えることが不可能であった。ファツィオリでは各音のブリッジを個別に移動させられる独立アリコート方式を採用しているため、倍音を正しく響かせることができ、美しく整った音が得られる。
◇ 駒の材質の使い分け
ファツィオリでは、駒の基礎上に位置する木材に
カエデと
シデと
ツゲの3種を用い、硬度の違いを生かして音域ごとに3種を順に使用するよう設計している。駒の表面の加工も、熟練した職人の手作業で時間をかけて精密に仕上げられる。
◇ 音色の変わらない弱音ペダル
ファツィオリは「音色の変わらない弱音ペダル」(通常の3本のペダルに続くものとして「第4ペダル」と称する)の特許を取得している。第4ペダルの原理は、ハンマーを弦に近付け、
音色を変えずに
音量を小さくすることである。第4ペダルを踏むとハンマーが弦に近付き、鍵盤が下がった状態となり、打鍵時の鍵盤の沈む深さ(あがき)が浅くなって操作が軽快になる。弱音ペダルとしての用法だけでなく、超絶技巧のパッセージを高速で弾くためにも用いることができる。
4本ペダルは、モデルF308のみに標準仕様とされている。他機種ではオプションで4本ペダル仕様にすることが可能であるが、追加料金が必要となる。また購入後にペダルの増設はできない。
◇ 金属部品のメッキ
多くのピアノ・メーカーの金属部品は剥き出しの真鍮であるが、ファツィオリでは防錆と美観を考慮し、全ての金属部品に金
メッキ処理を施している。
◇ 表現媒体としての位置づけ
一般的なピアノは、19世紀以来の伝統的な音楽の表現のニーズに合わせ、各音域の音質を特徴的なものとなるように設計されている。一方ファツィオリではその特性が奏者の自由な表現の妨げになるとみなし、各音域の音色が均質となるよう設計されている。
各音域ごとの音質を揃えて演奏したい場合、従来のピアノでは奏者に多大な負担がかかるが、ファツィオリでは音色を揃えるのに労力を必要としない。逆に各音域での音色の違いを生かしたパッセージをファツィオリで演奏しようとすると、ピアノ自身の持つ各音域の音色の違いに頼ることができず、奏者が自らの演奏技術で音色を作り出す必要がある。これは、楽器は音色づけの補助をするものではなく、どんな場合でも奏者の意志を表現できるものであるべきだという方針によるもので、他メーカーのピアノとファツィオリの設計方針が根本的に異なる特徴のひとつだとみなされている
要出典。
◆ 現行機種一覧
・F156
・F183
・F212
・F228:通常のセミ・コンサート・グランド・ピアノ
・F278:通常のフル・コンサート・グランド・ピアノ
・F308:ファツィオーリ独自の特大コンサート・グランド・ピアノ
機種番号のFに続く数字は、ピアノの奥行きを(
cm単位で)表している。
◇ F308
F308は、全長308cm
[ちなみに、他社製で最大となるのはベーゼンドルファー製で290cm]、重量690kgと世界最大のピアノである。F308は、大ホールでの演奏や
ピアノ協奏曲など、従来のグランド・ピアノでは困難だった状況に対応可能な、特大サイズのモデルである。グランド・ピアノは、奥行きの長い機種ほど、低音の力量が強くなり、中高音とのバランスを保つ演奏が困難であるが、F308は、全音域のバランスを保つ設計となっている。またF308は、4本ペダルが標準仕様である。
◇ 他メーカーのピアノとの機種対照表
奥行きサイズに応じて、同等機種を一覧とする。